オープン・イノベーションの推進

世界の多様なプレイヤーとつながり、
次のイノベーションへの道筋を開く

※所属部署・役職名は2019年度時点

知の交流と探索
/広い視野での産学連携

新しい可能性の源になりうる産学連携は、技術力の涵養に取り組み続けてきた高砂熱学工業にとって大きなテーマだ。2014年には、2つの包括的連携協定を結んだ。一つは長岡技術科学大学と、もう一つはマレーシア日本国際工科院(MJIIT)とのパートナーシップを広い視野で進めようとするものだ。こうした種蒔きが、さまざまな方向の芽吹きを生む時期に差し掛かりつつある。

長岡技術科学大学包括的連携協定
MJIIT包括的連携協定

国立大学法人長岡技術科学大学は、実践的な技術の開発を主眼とした工学系の教育研究を行う機関で、日本に2校ある「技術科学大学」の一つだ。「社会の変化を先取りする“技学”を創成し、未来社会で持続的に貢献する実践的・創造的能力と奉仕の志を備えた指導的技術者を養成する」ことをモットーに、大学院に重点を置き、グローバル社会に不可欠な大学となることを目指している。「産学融合トップランナー養成センター」を開設するなど、民間企業との連携にも非常に積極的だ。技術研究所の所長時代から同大学との交流に携わり、協定を結んでからも主要な橋渡し役の一人となっている、当社イノベーションセンター副センター長の井上正憲は、「同大学がグローバル視点での関係強化に熱心な点が高砂熱学工業の姿勢と合致すること、そして工科系のほとんどの学科を持ち、広い視野で協働していく相手として最適だと考えたことが、包括的連携を結ぶ決め手になりました」と振り返る。
長岡技術科学大学との共同研究のテーマの一つに、「高機能繊維ろ過による配管長寿命化技術の開発」がある。亜鉛メッキ鋼管の腐食の原因になる水中の物質を選択的に除去することにより、設備配管の寿命を延ばそうという試みだ。同大学の材料系の研究室が進めてきた基礎研究の成果をもとに、高砂熱学工業が設備配管を長寿命化させるシステムを開発している。同大学の技術開発センター内に開発拠点を置き、2017年度から3年間のプロジェクトとして実施している。

長岡技術科学大学と関係の深いベトナム・ハノイ工科大学も参画するプロジェクトでは、「SWIT®による空間空調のCFD解析技術の高度化」をテーマとする共同研究を実施。高砂熱学工業が開発・提供するSWIT®(スウィット、旋回流誘引型成層空調システム)が導入される工場を対象に、数値流体力学(CFD)解析による事前検討と施工後の実測を比較し、現行のモデリング手法の再精査を進めて、予測精度を高めることを目指す。ハノイ工科大学の学生も参加する形で、解析の予実確認を進めている。
これからの共同研究テーマを探るために、長岡技術科学大学の中堅・若手研究者と高砂熱学工業の技術者が交流する場が「技術ワークショップ」だ。2017年度にエネルギー、水処理、AI分野で開いたのを皮切りに、幅広い対話を重ねている。井上は、「長岡技術科学大学には、多彩なシーズを持った研究者の方々がいます。あえてテーマを限定せず、将来につながるような対話ができればと考えています。共同研究につながる材料を見つけるだけでなく、私たちの研究のヒントをいただく面でも、大いに期待できます」と語る。

一方、マレーシア日本国際工科院との連携は、「高砂 熱・環境リサーチラボ」と「高砂教育研究支援制度」を軸とし、高砂熱学工業が5年間で1億円を拠出。当社の研究講座となる「高砂 熱・環境リサーチラボ」は、マレーシアおよびASEAN諸国における熱力学、流体力学および環境科学・工学の分野、なかでも再生可能エネルギーや省エネ技術の領域で研究活動を行うものだ。また、「高砂教育研究支援制度」では、当社の関わる周辺技術など広い分野における研究、教育や研究者に対し、研究資金面での協力を行っている。

これらに加え、特定領域に関する連携にも取り組んでいる。例えば、高砂熱学工業の技術研究所は、吸着材を利用した新たな蓄熱技術などを実用化するために、本技術の実績を持つZAE Bayern(ドイツバイエルン州立応用エネルギー研究センター)と幅広い技術交流を進めている。
高砂熱学工業は、こうして研究開発のネットワークを広げながら、知の交流と探索を進め、共創の機会を生み出し続けている。

スタートアップ企業との出会いと協働/アクセラレータプログラム

オープン・イノベーションの起爆剤として、高砂熱学工業は2017年度から「高砂熱学工業アクセラレータプログラム」を実施。これまでの空調設備工事業の枠を超えた、新たな価値づくりを追求している。スタートアップのアイデア・技術・実行力と、高砂熱学工業のリソースとを掛け合わせることで、豊かで心地よい生活環境を実現する革新的な事業を創造し、成長させ、社会に定着させることを目指すものだ。
2017年9月から実施した第1回では、「Smart Building・Smart Room(建物空間・パーソナル空間)」「Smart City(地域・インフラ)」「Smart Construction(建設現場)(CON-TECH)」の3つをテーマとして設定。「スマート」を共通のキーワードとして、AI、AR/VR、IoT、ロボット技術、BIM(Building Information Modeling)などを活用し、新しい事業・新しいサービスを生み出す意思のある方々を公募した。書類選考、プレゼン選考を経て、最終のビジネスアイデアについての面談選考の末、選抜されたスタートアップには翌年度の事業化プロジェクトに参加いただく計画とした。

選考の結果として、AIやIoTを活用するユニークな提案をしたLiLz株式会社およびグリーンコンチネンタル株式会社の2社を採択。LiLz株式会社とは、IoTカメラと機械学習を活用したメータ自動読み取りクラウドサービス「LiLz Guage(リルズゲージ)」を共同開発した。

第2回では、高砂熱学工業の事業領域にとらわれないように、「新領域に挑むビジネスプラン」を含む形でテーマを見直し、2018年9月に公募を開始。
株式会社ネインと株式会社ズームスケープの2社を採択し、株式会社ネインとはヒアラブルIoTデバイスを活用した音声点検サービス「Zeeny Pro(ジーニー・プロ)」を共同開発した。多様なアイデアを持つプレイヤーとの出会いと協働は高砂熱学工業がイノベーションを生み出し続ける企業へと進化させていく。

創造の場づくり/高砂熱学イノベーションセンターの開設

「多様な人々が集い夢を育む成長の場、社内外の知識・知恵を結ぶ創造の場、高砂の技術を世界に拡げる発信の場」
茨城県つくばみらい市で2020年から運用を開始した「高砂熱学イノベーションセンター」について、高砂熱学工業が描くビジョンである。

同センターは、外部とのオープンな連携を前提として、あらゆる側面を設計している。入りやすい低層の建物とし、ビジターが玄関を入ると、広々とした空間が迎え入れる。豊かな採光や自然換気も、開放的な雰囲気を強化する。もちろん外部とのコラボレーションをする空間も準備している。機密保持の面で不可欠なセキュリティも、ビジターの方々が入るエリアについてはレベルを調整し、使いやすさを損なわないように配慮している。将来のイノベーションを担う子どもたちが自由に見学できる展示施設の設置も検討。駅に近い立地も、同センターを多くの方々が訪れやすい場所にするだろう。

井上が語るこれからの展望はこうだ。「これから更に、様々な課題の多様化や複雑化が進み、これまでの専門領域のみの技術では対応が難しくなってきます。また、外部環境も急速に変化してきます。そのため、異分野領域の方々と積極的に連携し、全体を俯瞰する力、独創的な企画力、スピーディな開発力を強化していくことで、様々な課題の解決を図り、イノベーションを生み出し続ける逞しい企業に進化させていくことが重要です。」