海外事業の拡大

グローバル市場で存在感を認められる環境企業へさらなる拡大を目指す

※所属部署・役職名は2019年度時点

海外事業の新たな展開へ

確かな一歩を刻み続けながら、悠々と進んでゆく様子は、象に例えることができるかもしれない。
高砂熱学グループの海外事業は、1974年にシンガポール駐在員事務所を開設して以来、40年超にわたって着実に拡大してきた。2018年9月現在、アジアを中心に10カ国で事業を展開し、各国に現地法人を置く。最近はM&Aも絡み、2016年度に284億円だった国際事業の売上高は、2018年度には471億円となった。ここへきて、成長のギアが一段上がっている。

新しい局面に入りつつあるのは、数字面だけではない。高砂熱学グループにとっての新しい時代を象徴するようなプロジェクトが動き、相次いで完工している。
その代表格が、マレーシアにおけるオスラムオプトセミコンダクターズ社の新工場建築工事である。高砂熱学グループは、数多くの設備の施工を担当してきたが、100億円を超える大型プロジェクト全体に対して責任を持つケースはごく限られていた。しかし、高砂熱学グループのマレーシア現地法人であるT.T.E Engineering (Malaysia) Sdn. Bnd.は、1980年代より電子デバイス・機器業界の生産施設を中心に多数のプロジェクトを手がけた実績により、その壁を破った。オスラムオプトセミコンダクターズ社の新工場を、建築・設備一式ターンキープロジェクトとして受注し、2017年に完成させた。“ターンキー”というのは、文字通り「鍵を回すだけで使用できる状態で引き渡す」という意味で、物件全体を最初から最後まで手掛けることを指す。

また、設備工事を中心に30年を超える施工実績を積み重ねてきた中国でも、初めて化学プラントの一式工事を実施。天候に左右される土木工事を前倒しで行い、配管工事には3次元CADを使用するなど、工期短縮に向けた工夫を重ねたことで、厳しかった工期にも遅れることなく完工した。このプロジェクトは、中国現地法人(高砂建築工程(北京)有限公司)の従業員が主体となって遂行した。

インドネシアでも、別の領域で新しい一歩を踏み出した。高砂熱学グループが提供するGODA®クラウドは、建物の中央監視装置から運用データを収集・蓄積し、運用状態を多角的に分析して改善につなげるためのツールだ。その大きな特長は、地理的な制約を受けることなく省エネチューニングを行うことができる点にある。日本国内で多くの利用実績があるGODA®クラウドを海外へと展開する最初の事例として、インドネシアの工場へのサービス提供を開始する。必要に応じ、サービスの一環として、日本にいる省エネチューニングの専門家が、同工場のエネルギー管理担当者を遠隔でサポートしていく。

さらに高砂熱学グループは、仕事の内容だけでなく、やり方や体制も変えていこうとしている。今後の国際事業は、現地のパートナーとの合弁会社設立や提携を選択肢として重視し、現地における事業基盤を、よりスピーディーに確立していこうとしている。
2017年11月には、在インドのクリーンルーム向け関連機器・内装材メーカーであるIntegrated Cleanroom Technologies Private Limited (ICLEAN社)を連結子会社化した。ICLEAN社の保有する機動的な組織力や医薬分野における知見やノウハウ、営業・販売ネットワークを最大限に活用し、インドにおける事業展開を進めていく。

海外事業を支える“人づくり”

海外事業を着実に拡大しながら、信頼に応える高品質の仕事を積み重ねていくために、高砂熱学グループが並々ならぬエネルギーを注ぎ続けているのが、人財育成である。
10カ国に展開する現地法人を支えるのが、「ナショナルスタッフ」と呼ばれる現地社員だ。かつては「ローカルスタッフ」という言葉を使っていたが、事業を展開する国々への、そして事業の屋台骨を担っていく現地社員へのリスペクトを込めて、現在はこの呼称にしている。高砂熱学グループが初期に事業所を開設したシンガポールやマレーシア(順に1974年、1980年)では、技術職や営業職はもちろん、経営幹部としてもナショナルスタッフが活躍している。

そのため、高砂熱学工業の国際事業統括本部 国際事業推進部では、ナショナルスタッフの能力や意識を継続的に高めていくための機会を、さまざまなアプローチで企画している。
その一つが、海外現地法人の従業員3~5年生を対象とする、日本での技術研修。1週間の研修のハイライトは、施工中の現場をじっくりと歩き、打ち合わせなどにも参加する現場見学である。

研修の企画・運営を担当する国際事業推進部 担当課長の万光範彦は、その狙いをこう説明する。「日本における工事の進め方や仕事の考え方を体感し、気付きを持ち帰ってもらうことが、最大の目的です。例えば、現地で掃除の大切さをいくら言ってもピンと来なかったナショナルスタッフが、日本に来て同じくらいの年代の社員が職場を清潔に保つ行動を取っている様子を見ることで、その意味を深く理解するようになります。現地法人の日本人社員からも、研修から帰ってきたナショナルスタッフとは意思疎通が図りやすくなった、といった好反応をいただいています」
この技術研修では、高砂熱学グループがどのような企業なのかを多角的に理解できるようにするための座学を受けた上で、高砂熱学工業の技術研究所や、設備機器の開発・製造を担う子会社である日本ピーマックの工場視察も行っている。“総合設備事業者”としての業容への理解や、5Sや6Sといった品質管理手法も含めて、どのような過程で製品を作っているかの認識を、一人ひとりのナショナルスタッフと共有しようとしている。さらには、衛生陶器メーカーのショールームや、配管加工会社の事業所にも訪問し、現地でも顧客になることの多い日本企業の担当者が、どのような製品を思い描きながら建物や設備へのリクエストを出してくるのかを学べるようにしている。これは、現地溶接の必要性をなくし、品質や安全性を大幅に高める「プレハブ配管」のような日本の技術について知る機会にもなっている。
技術研修は、今後さらに発展させる余地も大きい。万光は、「できることなら、半年から一年をかけて、現場にメンバーとして入ることができると、さらに研修効果が高まると考えています。外から見るだけでなく、計画、実施、確認と自ら携わることで、より深い学びが得られるのではないでしょうか。これを実現するには国内側の協力を得なければいけませんが、可能性として見据えたいと思います」と展望を語る。

各海外現地法人のナショナルスタッフが、自国で検討し実践した業務について互いにプレゼンテーションを行う「技術発表会」も、2015年度から開催。最優秀発表者は、高砂熱学グループ全体で行う「グループ技術発表会」への参加資格を得ることになり、ナショナルスタッフにとって大きな目標になっている。ナショナルスタッフによる英語での発表は、日本人社員によい刺激となり、高砂グループの“内なるグローバル化”にも一役買っている。なおこの場には、技術研修で訪日するナショナルスタッフも出席している。

こうして技術力を身につけたナショナルスタッフは、後進を指導する側にも回る。タイでは、現地法人のナショナルスタッフ幹部技術者が若手スタッフを教育する場としてのTraining Centerが2017年に完成。ここでは、図面研修・設計研修も含め、より実践的な技術研修が行えるよう様々な工夫が施されている。この取り組みは、高砂グループにおける重要な事例として、今後水平展開していくことになるだろう。

ナショナルスタッフの育成は、技術面にとどまらない。各現地法人の業務支援を担う国際事業推進部は、営業についても技術と同等の体制を組み、東南アジア統括部とも連携しつつ、高砂グループ流の営業手法を指導している。基本を大切にし、情報収集から、お客様へのアプローチ、提案、案件のクロージング、社内情報共有まで、一連の営業機能が確実に遂行されるように、そのような能力を持つ営業チームを育てている。営業の成功には技術側との連携が欠かせないことから、国際事業推進部では営業担当と技術担当が机を並べ、相互にサポートをしながら支援業務を展開している。
海外事業の成否を握るのは人財。その揺るぎない信念のもと、高砂熱学グループはこれからもナショナルスタッフの育成に取り組んでいく。